第3話 資源大国になるか、日本? (2012年7月号)
メタンハイドレートと海底熱水鉱床
その2 海底熱水鉱床
海底熱水鉱床は海底にある熱水鉱床である。海底を割ってマグマが噴き出すスポット”熱水鉱床”はマグマに含まれる金属の硫化物が海水で急冷されて固まった成分が積もるため、貴重金属の宝庫とされる。熱水鉱床は火山活動がみられる海底山脈や火山性列島の周辺海域に主に存在し、日本近海はこの条件にぴったりだ。メタンハイドレートとともに、熱水鉱床も地震が起きる所に多くある。
海底熱水鉱床には銅、鉛、亜鉛などのベースメタル、金、銀などの貴金属、ゲルマニウムやガリウム、セレン、カドミウムなどのレアメタルが含まれている。そのため、今日、海底熱水鉱床が熱い注目を浴びている。日本近海に眠るメタンハイドレードと併せると、日本は一気に資源大国、資源輸出国になることも夢ではあるまい。
日本は地震大国で、それは太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈みこむ際にプレート同士がぶつかりあう巨大な力によって発生する。火山の噴火も太平洋プレートの沈降に伴い、マグマが絞り出されることによって引き起こされる。海底でも火山は活発に活動している。海底火山からは断層などから浸透した海水がマグマによって熱せられ、海底の割れ目から噴出する。これが熱水である。そして噴出口の周辺には、熱水に含まれる金属成分が沈殿し堆積する。堆積物はチムニーと呼ばれる煙突状の塊になることもある。そのチムニーが成長し、崩れ、その隙間を堆積物が埋めていく。こうやって長い時間をかけて形成されたのが海底熱水鉱床である。
政府は2007年より「海洋基本計画」を推進、海底熱水鉱床およびメタンハイドレートなどを開発し、10年内を目処に事業家することを目指して調査を進めている。2010年、伊豆、沖縄付近の数箇所で有力な海底熱水鉱床が確認されている。
他国でも海底熱水鉱床からの資源回収は事業化された前例がなく、技術的課題も含めて検討すべき事項は多々あるが、資源に乏しい日本が自国の排他的経済水域で安定的に資源を回収できる可能性がある事業として期待されている。
海底熱水鉱床に限らず、メタンハイドレートや石油・天然ガスなど海洋資源開発は海洋国家である我が国の生命線であり、それこそ50兆円を超えるような金属埋蔵量があるのならば将来的に日本が資源輸出国に転じることも夢ではあるまい。排他的経済水域、世界第6位の広さをもつ日本は、海洋資源開発に国として優先的に取り組むべきであり、このアドバンテージを利用しない手はないだろう。
特にレアメタルは、私たちの生活を豊かにする通信、自動車、医療、太陽電池などの最先端技術に欠かせない元素である。レアアースは鉄などと混合すれば磁力や耐熱性を強めることができ、ハイブリッド車やハイテク製品の生産に不可欠で、今後も需要は一層高まると見られている。レアメタルを含めた金属資源の消費は、日本だけでなく、中国などの目覚ましい発展をしている国に集中している。それで、中国は自国で生産されるレアメタル資源の輸出を停止した。
沖縄近海で行われた、採掘調査で、海底下で半径10Kmの大きな熱水の滞留が発見された。その熱水の表面には金・銀・レアメタルを多く含む黒鉱鉱床が存在している可能性が高いということだった。このあたりは尖閣諸島とは異なり、我が国の排他的経済水域内なので、仮に採掘が可能になれば資源問題はかなり解決することになる。
また、日本の最東端に位置する南鳥島が資源大国への夢に希望を与えている。東京から約2千km離れた南鳥島は太平洋に浮かぶ火山島で、南鳥島近海の鉱床でハイテク産業に欠かせないレアアースやマンガン、コバルト、ニッケル、プラチナ、ネオジウムといった鉱物の埋蔵が確認された。鉱床の調査と開発計画が順調にいけば、日本が中国へのレアアース依存から脱却する日も近いかもしれない。